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金沢市

 
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現在位置:トップの中の観光情報の中の文学のまち金沢から金沢の文化的魅力発信⑤
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金沢の文化的魅力発信⑤

『金沢おでんの誘惑』  嵐山 光三郎

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嵐山 光三郎

 金沢へ行き、なじみの居酒屋のカウンターで酒を飲んでいると、デイパックをかついだヨーロッパ系青年が入ってきて「オデン、オデーン」と言った。一緒にいた金沢在住の新聞記者が応対すると「金沢おでんの店を教えてくれ」とのことだった。記者氏は紙に地図を描いて近所のおでん屋二、三軒を教えた。おでん屋はどこも満員で、すぐに入れるか、行ってみなければわからない。
 昭和四十三年、結婚したばかりのカミさんを連れて金沢を訪れた。大雪が降って、金沢の町はどこもかしこも銀世界であった。兼六園の霞ヶ池や、金沢城の石川門、長町武家屋敷といった定番のコースを歩き、日が暮れたころ小さなおでん屋に入った。板葺(ぶ)きの屋根に石を乗せた店構えで、店へ入るとおでんが煮える匂(にお)いにつつまれた。
 おでんのほか、小アジの南蛮漬け、きりぼし大根、ポテトサラダ、小イカの煮つけなどがカウンターの上に並んでいるが、メインはおでんである。大根はずんぐりむっくりした源助大根を使う。金沢市打木町(うつぎまち)の松本佐一郎が昭和十七年(ぼくが生まれた年)に開発した大根で、太さが均一で煮くずれしないため、おでんの具として高く評価されている。加賀れんこんなどの加賀野菜もあり、里芋やタケノコやギンナンの実もあった。
 なんといっても豪華なのは日本海の魚介類で、つみれ(摘入)は各店がイワシやメギスを加えて作る。口に入れるとほろほろとほどけるつみれは金沢の魔法ともいえる逸品である。大型の白バイも金沢ならではの味わいだ。豆腐、はんぺん、ゴボウ巻き、コンニャク。おでん種は季節によって変るが、車麩(くるまふ)と餅(もち)きんは初めて食べた。牛すじ煮込みはトロトロで舌になじみ、ふんわりと溶けるやわらかさ。
 雪がしんしんと降るなかで、おでんを肴にして熱燗の酒を飲んだ。それは身にしみる幸せな時間だった。それから五十年余がたち、最近はカニ面というおでん種ができた。ズワイガニのメス(香箱(こうばこ))の身とタマゴとミソをほぐして甲羅につめ、糸で表面を縛った様子が剣道の面頬(めんぽお)に似ているため、カニ面という。
 金沢は日本有数の高級和食料亭が覇を競っているけれど、庶民が食べるおでんの風格とパワーもただならぬものがある。おでんの店は学生と教授、職人と旦那、おばちゃま、じいさん、市長、地元の客と観光客が、それこそおでんの具のように肩を並べて寄りそっていて、それも金沢の底力であろう。
 金沢おでんへの偏愛がたかまり、四年前に嵐山作詞・中村誠一作曲の「金沢おでんの唄」を作って中村誠一ジャズコンサートで発表した。ラテン調で〽オデン・オデン・オデーンとスキップする曲で一番から四番まである。「金沢おでん」という名は、地元の客には耳慣れないものだったが、北陸新幹線が開通すると、あっという間に全国に広がった。のみならずヨーロッパにも広がり、デイパックをかついだ外国人に知られるようになった。二十代のころは、ぼくもデイパックをかついでフランスやポルトガルやモロッコを旅したが、食べに行く店は値の安い店ばかりだった。そのときわかったのは、料理は町のバロメーターで、力のある町は安食堂でもうまい。荒れている町は、なにを食べてもまずい、ということであった。
 いまは、金沢のおでんの老舗はどこもかしこも満員で、地元のなじみ客が入れなくなった。人気の急上昇は住んでいる人には迷惑な話だろう。「金沢おでん」を言いふらした私にも責任の一端がある。
 という次第で「人情しみる金沢おでんを語る懇話会」が開かれた。おでんだけで懇話会を開催してしまう金沢市のフットワークのよさにビックリで、ぼくもコメンテーターとして出席した。金沢市内で、創業五〇年以上の老舗おでん店やかまぼこ店の代表がメンバーである。話題となったのは「ソモソモ金沢おでんとはなんであるか」という定義である。「車麩・赤巻・ふかし・バイ貝・カニ面・金沢銀杏(ぎんなん)を使ったひろず・源助大根などの加賀野菜といった金沢独特の具」を使う。だしはそれぞれの店の五〇年余の技があってさまざまである。ちなみにぼくが五十余年前にいった店のだしのベースは、昆布・かつおぶし・鶏・たまねぎである。たまねぎは汁のアクを吸いとって、野菜の甘みをひき出す。コハク色の澄んだ汁のなかで、具の味が渾然一体(こんぜんいったい)となり、源助大根にしみている。金沢おでんを食べるときは、冬でも夏でも、まず源助大根から味わって下さい。そのつぎはつみれだな。つみれは店の腕の見せどころで、どの店も金沢ならではの味わい。
 かくして「老舗50年会」が結成されて確認書にサインをした。毎月二十二日を「金沢市民おでんの日」とし、そのココロは「フーフーと吹いて食べるから」だって。おでんの老舗が団結して味を守っていくなんて、じつに愉快な話ではありませんか。


嵐山 光三郎 (あらしやま・こうざぶろう)
静岡県生まれ。平凡社「太陽」編集長を経て独立、執筆活動に専念する。『素人庖丁記』により講談社エッセイ賞受賞。『芭蕉の誘惑』によりJTB紀行文学大賞、『悪党芭蕉』により、第34回泉鏡花文学賞、読売文学賞をダブル受賞。著書に、『追悼の達人』、『文人悪食』、『漂流怪人・きだみのる』、『枯れてたまるか!』、『芭蕉という修羅』など多数。泉鏡花文学賞選考委員。

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問い合わせ先

文化スポーツ局 文化政策課
電話番号:076-220-2442
FAX番号:076-220-2069
bunshin@city.kanazawa.lg.jp

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