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金沢市

 
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現在位置:トップの中の観光情報の中の文学のまち金沢から金沢の文化的魅力発信②
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金沢の文化的魅力発信②

『薔薇の肌触り』  千早 茜

chihaya
千早 茜

  小説家というなんとなくぼんやりとした仕事をしていますが、私自身は原因と結果を意識して行動するタイプで、運命や縁などという言葉を自主的に使うことはあまりありません。
 けれど、金沢のこととなると「縁がある」という表現がぴったりなように思われます。
 まずは、妹が住んでいるということ。そして、二〇〇九年に『魚神(いおがみ)』で第三十七回泉鏡花文学賞をいただいたこと。
 『魚神』は私のデビュー作でした。初めて書いた長編小説で小説すばる新人賞をいただき、念願の小説家になってまだ一年も経たないうちに、泉鏡花文学賞を受賞したとの報せを受け取りました。ちょうど好きな中華料理店でオーダーを終えた瞬間だったことを覚えています。注文をキャンセルして慌てて店の外へ飛び出しました。泉鏡花は大好きな文豪で、泉鏡花文学賞は憧れの賞でした。私は小心者なので、喜びよりも畏れ多さが勝り、かなり動揺してしまいました。辞退した方がいいのではと編集者に相談したり、こんなに早く夢を叶えてしまったら代わりにとてつもなく悪いことが身に降りかかるのではないかと怯えたりしました。
 けれど、その時ふと、金沢には縁があるのかもしれない、と思いました。『魚神』を書く前、金沢には何度も取材で行っています。茶屋街や辰巳(たつみ)用水をまわり、小松市の「苔の里」にも行きました。『魚神』は架空の島を舞台にした作品で、金沢そのものがモデルというわけではないのですが、金沢をはじめ、石川県のさまざまな場所で感じた湿度や水や緑の気配は作品に生かされています。
 そう思うと、気持ちは落ち着きました。きっと縁という言葉は、人を納得させるためにあるのでしょう。受賞者として恥ずかしくない小説家になろうと心に決めました。
 
 金沢での授賞式はあたたかい雰囲気でした。選考委員の先生方は優しく、合唱団の皆さまがお祝いに歌をうたってくださいました。
 印象的だったのは、胸につけていただいた深紅(しんく)の薔薇(ばら)です。造花だとばかり思っていたのですが、壇上で座っていると胸の辺りから良い香りがしてきました。花びらに触れると、しっとりと柔らかく、かすかに冷たい。薔薇の香りを嗅ぎながら受賞スピーチをしたのは初めてでした。
 たくさんの方にお祝いの言葉をいただき、美味しいものを食べ、お酒を飲んで、ふわふわと夢のように金沢の夜が過ぎていきました。次の朝ホテルで目覚めると、深紅の薔薇がテーブルの上にあり、昨夜のことは夢ではなかったのだと教えてくれました。あの深い赤色は今も記憶に残っていて、薔薇の香りを嗅ぐたびに授賞式のことを思いだします。
 不安な気持ちではじめた小説家という仕事でしたが、この賞が勇気づけてくれた気がします。賞をいただいてから八年、今も書き続けることができています。
 
 仕事で金沢に住んでいた妹は、金沢の伝統工芸を生業(なりわい)としている方と結婚しました。彼の作る伝統工芸品は美しく、歴史と文化の重みを感じます。彼女たちに会うため年に数回は金沢を訪れています。やはりご縁があるようです。
 金沢に行くたび、良い土地だと感じます。なんと言っても、食べものが美味しい。私の住む京都ではなかなか手に入らない海の幸がいっぱいです。日本酒も豊富でついつい食べ過ぎてしまいます。甘いもの好きの私にとっては、和菓子の種類が多いのも魅力です。なかでも、「えがら饅頭(まんじゅう)」が大好物。えがら饅頭目当てに能登の朝市に行ったくらい夢中です。いつもたくさん買って帰っては冷凍保存して、網で炙って食べています。小さい頃から餅菓子は好きなのですが、それを差し引いても私のえがら饅頭への執着は特別で、よく妹夫婦に呆れられています。ひとつの菓子のなかで糯米(もちごめ)部分と餅部分を両方楽しめる菓子は他にないのではないかと思うのですが、どうでしょう。
 
 京都からサンダーバードに乗り、金沢駅で降りると、空気の匂いが違います。肌に吸いつくような湿気があり、かすかに冷たい。泉鏡花文学賞をいただいた時に胸につけていた薔薇を思わせるような、しっとりした空気です。それは泉鏡花の文学にも通じるのではないかと思います。その土地の空気の中で生まれた文学が賞となり、脈々と受け継がれていくことは希少なことではないでしょうか。
 私にとって、金沢は第二の故郷のような土地です。北陸新幹線の開通いらいどんどん観光客が増えていっているようですが、どうか古き良き文化を失わずに、鏡花文学の気配を感じる金沢で在り続けて欲しいと願います。
 

千早 茜 (ちはや・あかね)
昭和54年北海道江別市生まれ。幼少期をアフリカで過ごす。立命館大学文学部卒業。京都市在住。
デビュー作『魚神』で、第21回小説すばる新人賞(平成20年)、第37回泉鏡花文学賞(平成21年)をW受賞。『あとかた』で第20回島清恋愛文学賞(平成25年)を受賞。
著書に、『おとぎのかけら 新釈西洋童話集』 『男ともだち』 『西洋菓子店プティ・フール』 『ガーデン』 『人形たちの白昼夢』など多数。

※無断転載は固く禁じます。

問い合わせ先

文化スポーツ局 文化政策課
電話番号:076-220-2442
FAX番号:076-220-2069
bunshin@city.kanazawa.lg.jp

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