金沢市内の先進木造事例3_事務所
木造の事務所「株式会社明翫組 Head office」
木とRCの混構造の新社屋に望んだのは
地域とつながること。
そして社員が気持ちよく働けること。
明翫組は創業100年を超える建設会社です。道路、河川、海岸、港湾などの公共土木工事を主に、近年は住宅事業にも力を入れています。歴史を感じさせる5階建ての本社ビルは2022年6月、木造・RC造の混構造の落ち着いた建物に生まれ変わりました。
水平方向におおらかに伸びるライン。けれど建物自体は通りから一歩下がって控えめに。木の内装の商談スペースが外からも見え、オフィスビルというより居心地のよいカフェのようです。
社屋こそ新しくなりましたが、界隈の風景にとけこみ、地域に開かれた企業であることは変わりません。社長の明翫圭祐さん、専務の明翫英治さん、施工を担当した建築部主任の池下魁人さんにお話しをうかがいました。
―屋上に「明翫組」と社名を掲げた以前の本社ビルは、昭和生まれらしいインパクトがありました。新社屋は従来のイメージを一新する建物になりましたが、建て替えに至った経緯と、どのようなコンセプトで計画したのかを教えてください。
代表取締役社長の明翫圭祐さん
明翫社長 当社は美川町(現白山市美川)で創業し、その後今の金沢市泉野町に本社を構えました。1973(昭和48)年築の旧本社ビルはRC5階建てで周辺でも目立っていたため、明翫組といえば「ああ、あの泉野の」というイメージをお持ちの方が多いかもしれません。
建て替えのきっかけは、2017(平成29)年に金沢市から届いた耐震化に関する通知です。当社が立地する城南通りは緊急輸送道路となっているのですが、旧本社ビルは大地震が起きた場合、倒壊して通行障害を発生させるおそれがあるということでした。
さっそく耐震診断を行ったところ、耐震改修工事をすれば倒壊は防げるけれど、使用不能になるおそれがあるとの説明を受けました。災害時に建物が使えず本社機能が継続できないなら、地域の安全安心を担う建設業者としての役割が果たせませんから、改修ではなく新築することを決めました。
当社は社員数34名で、大半が現場に出て仕事をします。必要最小限の事務作業ができるこぢんまりとした社屋でも問題はありません。ただ、地域活動と結びついた企業経営を追求し、創業100年を超えて新たなステージを求めていくのであれば、別のあり方があってもいいのではと思いました。
そのためにはこんな規模で、こんなスペースがあって、こんなデザインで…とイメージを固めていった経緯があります。
―完成した新社屋は地下1階、地上2階で、最上階が木造、下がRC造となっています。こうした混構造とした理由を教えてください。
明翫社長 設計はK2-DESIGN(広島県)の河口佳介さんに依頼しました。建築雑誌に住宅の竣工写真が掲載されており、その非日常性が、自分が実現したい社屋のイメージとぴったり重なったんです。
河口さんと打合せをし、お互いの思いやアイデアを共有する中で、当社の2本柱である土木事業をRC造、建築事業を木造で表現した混構造はどうかとの提案をもらいました。
木造でも大空間は実現できますし、予算と施工性の兼ね合いでコストダウンが期待できることもあり、こちらとしては当初は木造を考えていたのですが、建物の構造で会社のあり方を表現するという発想に惹かれて混構造に決めました。ちなみにその場で河口さんが描いたイメージスケッチは、最終の意匠図にほぼ反映されています。
―コスト面で木造を想定していたけれど、“社屋は体を表す”ということで混構造を選んだのですね。 施工は自社で行ったということですが、新たな気づきがあったのではないでしょうか。
専務取締役の明翫英治さん
明翫専務 木造建築の新工法の現場を初めて手がけることになりました。
住宅などで一般的な在来工法は木の先端を削って組み合わせますが、今回の社屋では特殊な金物を使って木と木を固く接合する新工法を採用しています。安定した強度を実現し、柱が少なくても耐震性の高い大空間ができます。
建築部主任の池下魁人さん
池下さん RC造であってもコンクリートの圧迫感を抑えて木の雰囲気を伝えたいということで、 杉板を型枠として使って自然な木目をつけたのですが、この試験施工や養生管理はなかなか大変でした。
ほかにも混構造ならではの技術的なポイントはいろいろあり、学ぶことが多かったですね。
―外観も内観も、落ち着いた住宅ふうのデザインで、いい意味で会社らしくありません。
RC造部(商談スペース)は、打ちっぱなしコンクリートに杉板型枠で木目パターンをつけ、最上階の木造部との調和を図っています。 床は無垢のフローリング、内壁は珪藻土。
明翫社長 そうですね。この界隈は閑静な住宅街です。通りを挟んで向かい側には泉野図書館があり、隣の泉野福祉健康センター跡地は公園として整備中です。
旧社屋に負けない存在感を発揮しながらも、奇をてらうことなく、地域の環境や景観に配慮した建築でなければならない、ということは大前提としてありました。
具体的には、周囲に圧迫感を与えないよう通りからセットバックし、建物の高さを抑えています。地域に根ざした企業として人のつながりや流れを生み出したいと、商談スペースは町会の集まりなどに使ってもらっていますし、倉庫では地域のお祭りで使う神輿を預かっています。また1階にテナントを設けて事業者さんに貸し出しています。
―ハードでもソフトでも、地域にとけこみ、つながっているんですね。 社員の皆さんにとっては、仕事をする環境ががらりと変わりました。社内にも良い変化があったのではないでしょうか。
明翫専務 会社は自宅の次に長い時間を過ごす場所ですから、社員が気持ちよく働ける環境づくりは大切なことです。
最上階の木造部は新構法の強みを活かして広々とした事務スペースとし、木の筋交いを“現し”にしています。あわせてフリーアドレスやスタンディングミーティングなど、新しい働き方も取り入れています。
昔ながらの作業着も木造社屋のイメージに合わせたアースカラーに変更し、名刺類もナチュラルなデザインに一新しました。若い世代の共感を得やすいのではないでしょうか。
池下さん 実際、木のぬくもりが感じられる空間は居心地がいいです。
スキップフロアで周囲に窓をめぐらせているので明るく、開放感もあります。そして旧社屋に比べて断然、冬温かい。社員としてはやはりモチベーションが高まりますね。
―木造で社屋を建てる事例は少しずつ増えてきています。先駆者、実践者として木造社屋の魅力について、どう捉えていらっしゃいますか。
左から専務取締役の明翫英治さん、代表取締役社長の明翫圭祐さん、建築部主任の池下魁人さん。
明翫社長 木を使ったデザイン性の高い社屋は、企業イメージ向上につながると考えています。建設業界は人手不足、若手不足といわれますが、若い世代に「こんな会社で働きたい」と思ってもらえるような、採用面での効果も期待しています。
建築を手掛ける企業としては、金沢でも木造でこうした規模の社屋が建てられるんだという事例をひとつ示すことができたと自負しています。
私たちの社屋を見て、それなら自社のオフィスビルも木造で建ててみようという企業が増え、「木の文化都市・金沢」に貢献ができれば嬉しいですね。
【建物情報】
施主:株式会社明翫組
建築地:金沢市泉野町6丁目
用途:事務所
設計:河口佳介 + K2-DESIGN
施工:株式会社明翫組
竣工:2022年6月
構造:地下1階 地上2階(地下1階・地上1階/RC造、2階/木造)