調査結果のまとめ2010

調査結果のまとめ

セミのイラスト

前回2005年と今回2010年の両調査時の採集されたぬけがらの総数は、それぞれ約2万と約1万で、前回の方が今回の約2倍多くなっています。これだけをみると今年は前回の調査時よりセミの発生数が大きく減ったように思えます。しかし今回の調査参加者は前回より少ないので、採集されたぬけがらの数が減ったのはセミの発生数が減ったからなのか、調査人数が減ったためなのかはわかりません。

調査は各年についてそれぞれ同じ場所・同じ調査期間・同じ方法で行わないと正しい比較はできません。前回と今回のどちらかしか調査を行っていない校下もあれば、参加した校下の中でも前回と調査人数が大きく異なったところもあります。このように、いくつもの点で比較を正しく行えない事情が重なっているので、金沢市全体としてのセミの発生の傾向がどうなっているのかを明確に言うことは難しいのです。

ただ、観察日や見つけた数をきちんと記録しておけば、とても貴重なデータとなります。そしてそのようなデータがいくつも集まれば、もっといろんなことが分かってきます。

調査本部ではみなさんからいただいた調査記録をしっかり残していこうと思います。

解説1 金沢で見られるセミの種類

  • 市内で主に見られるセミ…アブラゼミ、ミンミンゼミ、ニイニイゼミ, ヒグラシ、ツクツクボウシ
  • 丘陵地や山地等で見られるセミ…エゾゼミ、チッチゼミ、ハルゼミ、コエゾゼミ
  • もともとは金沢市にいなかったセミ…クマゼミ、スジアカクマゼミ

金沢市には、アブラゼミのように市内のいろんな地区で見られるセミもいれば、エゾゼミやチッチゼミのように丘陵地などの一部の地区でしか見られないセミもいます。
白山に多いコエゾゼミというセミが金沢市の医王山にも生息していますが、今回の調査の対象にはなっていなかった夏のセミです。
また、ハルゼミという松の木が多い箇所に春に現れるセミがいます。これは市街地周辺の丘陵地帯にかなりいます。
その他、もともとは金沢に住んでいなかった種類としてクマゼミとスジアカクマゼミがいます。

クマゼミは、かなり以前から鳴き声は確認されていましたが、5年前のぬけがら調査で初めて金沢市内でぬけがらが確認され、今回の調査でも2地点からぬけがらが確認されました。

スジアカクマゼミは、河北潟近くにある金沢競馬場付近に生息していることが2001年夏に初めて発見され、徐々にその生息範囲を広げているようです。
スジアカクマゼミが競馬場付近から他の地区に広がってゆくかどうか、今後の金沢の昆虫の変化にとっての大切な観察課題です。

解説2 種類別の環境適応など

アブラゼミは、平坦地から山間地まで市内のいたるところで見られますが、市街地に特にアブラゼミの割合が多いのはなぜでしょうか。これについては都市化が進むにつれて市街地ではニイニイゼミ、ミンミンゼミなどが減り、アブラゼミが増えるのだという考えがあります。

都市には、草木に覆われていないむき出しの地面や舗装された地面(裸地:らち)が多く、都市化が進むについれて地域内の草木が減り、裸地が増え自然環境の悪化が進みます。

このような環境変化にうまく適応して生き残れるのがアブラゼミで、ニイニイゼミなどはそのような環境変化に適応できないので、数が減ってきていると考えられています。

山地のような自然にめぐまれた環境では、多くの種類の植物がそれぞれ数多く育っているように、セミも多くの種類がそれぞれ数多く生息するという豊かなセミ社会をつくり上げていきます。

しかし都市のように自然に恵まれない環境では、セミ社会も特定の種類ばかりが増え、それ以外は種類数も数も少なくなってしまうのです。

なお、それぞれのセミがどの様な場所が好きかを下の表に示しますので、今後の調査活動等の参考にしてください。

セミの種類別詳細
種名 生息場所 おもにとまる木
アブラゼミ 平地・市街地の樹林、山林など範囲が広い サクラ・ケヤキ・ナシなど
ミンミンゼミ 低山地から山地にかけての湿った林 サクラ・ケヤキなど
ニイニイゼミ 山地の林内、果樹園、平地など範囲が広い サクラ・ケヤキ・マツ・エノキなど
ツクツクボウシ 平地から低山地の樹林、市街地にも生息 サクラ・ケヤキ・カキなど
ヒグラシ 平地から山地にかけてのうす暗い林の中 スギ・シイ・ミズナラなど
エゾゼミ 標高500~1,000メートルの山地 ブナ・ミズナラ・アカマツなど
チッチゼミ 低山帯 アカマツなど
クマゼミ 平地や市街地に多い、近年都市部で増加 サクラ・ケヤキ・ポプラなど

(注意)出典:「セミのぬけがら調査報告書」(金沢市 1996年)

解説3 クマゼミとスジアカクマゼミ

今回の調査では、5年前に引き続き、クマゼミのぬけがらが2箇所から見つかりました。
また、競馬場付近の調査地点からは、日本全国でも金沢でしか確認されていないスジアカクマゼミという種類のセミのぬけがらが見つかっています。

ぬけがらの大きさはクマゼミと変わらないですし、おなかにはおへそもあります。
ぬけがらでクマゼミとスジアカクマゼミを見分けることはできないでしょうか??

左側:クマゼミの抜け殻の写真、右側:スジアカクマゼミの抜け殻の写真 どちらも翅の部分に黄色い丸印がついている

それぞれのぬけがらの羽の部分を見比べてみましょう。
上の羽と下の羽の生え方が少し違います。

クマゼミは、上の羽の先端と下の羽の先端がピッタリ重なるようにはえています。
一方、スジアカクマゼミは上の羽の先端が下の羽の先端より、少しはみだしています。
同じように見えますが細かいところを見ていくと、きちんと違いがあるんですね。

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