同和問題

同和問題とは

21世紀の今日、身分制度がなくなった現代社会においてもなお、同和地区や被差別部落と呼ばれる特定の地域出身であることやそこに住んでいることを理由に、様々な社会的不平等や差別を受け、人権が侵害されるという問題です。
具体的には、自由な結婚がさまたげられたり、就職で不公平な取扱いを受けたり、そのほか日常生活のうえでいろいろな差別を受けている人がいます。

同和問題の歴史

古代のわが国では、弥生時代の中ごろに階級社会が生まれたといわれています。
645年の大化の改新以降律令制度が整備され、身分制度が公の制度となり、人々は貴族、良民、賤民に分けられました。
しかし、10世紀頃の奴婢停止令により、古代の賤民制度は解体したと言われています。
中世には、身分として固定されてはいませんでしたが、染物業の青屋、皮革業の皮多と呼ばれる手工業者等の従事者や細工物や庭園業をはじめ芸能などに携わり、散所・河原者と呼ばれる人々が賤視されていました。
しかし、これらの人々のなかには、銀閣寺庭園をつくったといわれる善阿弥や仏像彫刻で有名な運慶など、日本の優れた文化を作り出した人々がたくさんいました。
戦国時代のあと、全国を統一した豊臣秀吉は、刀狩と検地を行い、農民と武士の身分を分け、農民を土地に固定する支配制を築きました。
江戸幕府は、豊臣秀吉時代の兵農分離をさらに進め、武士を支配者とし、村人(百姓)、町人(職人・商人)を支配の基礎とする身分制度を固めました。この過程で、村人、町人に入れられなかった一部の人々が、「えた」「ひにん」という別の身分として差別され、この人たちに対し、居住地や職業、結婚、服装まで厳しく制限したと言われています。
このような身分に基づく差別は、明治政府において、明治4(1871)年に公布された太政官布告(解放令)により改められ、「華族、士族、平民」としての形の上では差別はなくなりましたが、実際の差別は依然として残りました。
その後、各地で同和地区の人々とそれ以外の地区の人々との融和を目指す運動が進められましたが、当時の社会情勢のなかでは現実の差別解消や人権意識の向上は果たせませんでした。
このため、大正11(1922)年に同和地区の人々が、この差別問題を解決していくために結成したのが「全国水平社」です。
この時、『人の世に熱あれ、人間に光あれ』という言葉で結ばれる「水平社宣言」が発表されました。
差別に屈せず、すべての人の平等を願い、実現していこうと誓ったこの宣言は、その後の解放運動のいしずえとなり、同和問題の重要性を認識する大きな契機となりました。

同和対策審議会

今日における同和問題を考える場合、「同和対策審議会答申」をぬきに考えることはできません。
これは、昭和40(1965)年に同和対策審議会が内閣総理大臣に対し、「同和地区」に関する社会的及び経済的諸問題を解決するための基本的方策」について答申したものです。
この答申では、同和問題の本質を次のようにいっています。
「いわゆる同和問題とは、日本社会の歴史的発展の過程において形成された身分階層構造に基づく差別により、日本国民の一部の集団が経済的・社会的・文化的に低位の状態におかれ、現代社会においても、なおいちじるしく基本的人権を侵害され、とくに近代社会の原理として何人にも保障されている市民的権利と自由を完全に保障されていないという、もっとも深刻にして重大な社会問題である。」
「近代社会における部落差別とは、ひとくちにいえば、市民的権利、自由の侵害にほかならない。市民的権利、自由とは、職業選択の自由、教育の機会均等を保障される権利、居住および移転の自由、結婚の自由などであり、これらの権利と自由が同和地区住民にたいしては完全に保障されていないことが差別なのである。」と述べています。
同和問題の解決について、答申の前文では「その早急な解決こそ国の責務であり、同時に国民的課題である」としています。
そして、「問題の解決は焦眉の急を要するものであり、政府においては、本答申の報告を尊重し、有効適切な施策を実施して、問題を抜本的に解決し、恥ずべき社会悪を払拭して、あるべからざる差別の長き歴史の終止符が一日もすみやかに実現されるよう万全の処置をとられることを要望し、期待する」とむすんでいます。
この答申を受けて、昭和44(1969)年同和対策事業特別措置法が制定され、生活環境の改善をはじめとした特別対策事業が本格的に推進されました。
その後、2度にわたる法改正が行われ、最終的には、地対財特法の期限切れであった平成14(2002)年3月31日をもって、特別対策事業は終了しました。しかし、法に基づく特別対策事業が終了したからといって、同和問題が終結したわけではありません。

心理的差別と実体的差別

反社会的な身分差別である部落差別は、現代社会の中でいろいろな形で表われます。そして、この差別は、心理的差別と実態的差別に分けられます。
「心理的差別」とは、人々の観念や意識のうちにある差別で、言葉や文字で対象の人々を不当に軽蔑し、交際を避けたり、婚約を破棄し、採用を拒むなどの差別です。
「実態的差別」とは、生活実態に具現化される差別で、劣悪な生活環境や低い生活水準などから、就職や教育の機会均等が実質的に保障されないなどの実態があります。
この心理的差別と実態的差別は、相互に作用しあって、差別を再生産するといった悪循環を繰り返していました。実態的差別については、国の特別措置等の実施により、相当程度解消されてきましたが、心理的差別がなお根強く残っていることから、今後とも差別解消のための啓発を進めることが重要です。

えせ同和行為の排除

「えせ同和行為」とは、例えば高額な図書を売りつけたり不当な寄附を求めるなど、同和問題を口実として、企業や市民、行政に不当な利益や義務なきことを求める行為を指します。
このような行為は、「同和はこわい」という同和問題に対する誤った意識を植え付ける大きな原因となっています。こういった行為をなくすためには、同和問題を正しく理解するとともに、不当な要求は断固として断り、場合によっては法的な措置をとるなど、毅然とした態度が必要です。

同和問題の解決のために

よく、「同和問題は、そっとしておけば自然になくなるのではないか」という意見が聞かれます。しかし、明治の初めに解放令が公布されて以来、百数十年を経た今日でも同和問題はなくなっていません。また、同和問題について誤った認識を持つことで、かえって差別の気持ちが強くなる場合もあります。
私たちは、「同和」というと、どちらかと言えば、避けて通ろうとしがちです。しかし、私たち一人ひとりが同和問題について偏見を持たずに、正しい認識をもって身近な場面で取り組むことが同和問題の解決につながるのです。

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