結果解説
平成17年(2005)
金沢市セミのぬけがら調査結果から
石川むしの会 徳本 洋
アブラゼミがもっとも多いのはなぜか?
低地の中でもなぜ市街地に特にアブラゼミが多いのでしょうか。これについては都市化が進むにつれて市街地ではニイニイゼミ、ミンミンゼミなどが減り、アブラゼミが増えるのだという考えがあります。草木に覆われていないむき出しの地面や舗装された地面をひっくるめて裸地(らち)といいますが、都市は裸地が多く、都市化が進むときには地域内の樹木や草地が減り、裸地が増えるという自然環境の悪化が同時に進みます。このような環境変化にうまく適応して生き残れるのがアブラゼミで、ニイニイゼミなどはそのような環境変化に適応できないので、都市ではしだいに減ってきていると昆虫研究者は考えています。今回の調査結果を見ても、市街地では校庭、街路樹、人家の庭では特にアブラゼミが多く、社寺や公園緑地ではアブラゼミがやや少なく、他のセミがやや多くなっていますが、これも上記の考えでうまく説明することができます。
山地のような自然にめぐまれた環境では多くの種類の植物がそれぞれ数多く育っていますが、そこではセミも多くの種類がそれぞれ数多く生息するという豊かなセミ社会をつくり上げていきます。しかし都市のように自然に恵まれない環境では、セミ社会も特定の種類ばかりが増え、それ以外は種類数も個体数も少ないという、まずしいものになってしまうわけです。
ですから金沢市街地でも金沢城やその近所の本多の森ではミンミンゼミなどアブラゼミ以外のセミの鳴き声を多く聞くことができます。植物では都市化して裸地の多い環境になるとセイヨウタンポポが増え、ニホン在来タンポポが減るという例がよく知られていますが、これもアブラゼミとニイニイゼミの関係と似ているといえます。
- 金沢市で見られるセミ
下記リンクの「解説1」をご覧ください。 - クマゼミは住みついている
下記リンクの「解説2」をご覧ください。 - セミの種類ごとに現れる時期がちがう
下記リンクの「解説3」をご覧ください。
総まとめ
今回の調査は小学生が調査者で、その調査結果をお世話された方々がまとめて報告していただいたものです。脱皮殻からセミの種類やメス・オスを見分けるのは、決してやさしくはありません。ですからセミの名前の間違いやメス・オスの決め間違いなどがかなりあったと思われますが、報告された数字をそのまま使って集計をしてあります。そして、結果は10年前の調査結果とほとんど同じでした。このことから金沢のセミの様子は10年前とあまり変化していないことが分かったといえます。またこまかい数値の信頼性は高くはありませんが、全体の傾向は子供たちの手で十分につかめたといえましょう。そして、寄せられた感想文などを通しても子供たちが体験し、それから得たものがとても大きかったことがうかがえるのも嬉しいことです。
今回の調査では前回調査で参加の少なかった山手の小学校地区の参加があったので、金沢の山手の情報がかなり集まりました。それでエゾゼミやチッチゼミのデータが増えたのが目立ちます。また前回からの宿題となっていたクマゼミの抜け殻が見つかったのも大収穫でした。
自分たちが住む土地の自然環境を守り、育ててゆくことは、今後、ますますその重要さを増すに違いありません。そのようなことに対して、このような記録を作ることはとても役立ちますが、それは現在住んでいる人にとってだけでなく、環境変化の歴史という貴重な宝を後の人に残すという意味でも大きな役目を果たすに違いありません。そんな夢も今回の調査は描かせてくれました。