重要文化財「中屋サワ遺跡出土品」の修理

重要文化財「中屋サワ遺跡出土品」は土器、木製品、石製品など多種多様な遺物(計710点)で構成され、中にはそのままの状態では保管や展示を行うことが難しいものも含まれます。
金沢市では、そのような出土品について平成27年度から修理を行っており、令和4年度までに土器44点、木製品22点の修理が完了しています。
修理を行うことで、出土品の最適な状態を保てるようになるのはもちろんのこと、元の形状により近い姿での見学が可能になり、出土品の魅力がより高まることにも繋がります。
なお、修理は文化庁と石川県より補助金の交付を受けて行っています。

出土品の修理の考え方

遺跡からの出土品は貴重な文化財であり、長期的に保管・管理していかなければなりません。
それらは出土時そのままの状態を保ちつづけることが理想ですが、出土品の種類や状態によってはそれが難しいこともあります。
そのような場合には出土品を修理する必要があります。保存処理とも呼ばれます。
修理を行うことで、出土品を長期間安定的に保存することが可能となり、また展示公開などに活用することも可能になります。

出土品の修理を行う場合、欠損部分に充填する樹脂や接合に使う接着剤は、取り外しが容易な材料を使用する必要があります。
また、強化剤なども、いつでも取り除けるような材料や方法を使用します。
つまり、いつでも出土時の状態(ばらばらの状態)に戻せるようにするのです。
これを「可逆性」といいます。
出土品の修理には可逆性のある技術や材料を使うことが必須となります。
これは、将来により良い技術や材料が開発され、それらを使って再処理する場合、確実に原状に戻せるように、との配慮です。
中屋サワ遺跡出土品の修理にあたっても、可逆性の高い方法や材料を使用しています。

縄文土器の修理

土器の修理では、主に補強作業と彩色作業が行われます。
底の部分が欠けているものや欠損部が大きいものなどは、欠けている部分に特殊な樹脂を充填して全体の形を復元します。
これにより土器の強度が増し、破損しにくくなります。この時、土器の表面に施された様々な文様も忠実に再現します。
土器の表面がもろい場合や漆などが塗ってある場合は、特殊な薬品を用いて表面の硬化処理も同時に行います。
その後、樹脂部分に彩色して実物部分と同じ色調に合わせます。

木製品の修理

遺跡から出土した木製品は、地中に埋もれていた間に木材の成分と水とが置き換わり、スポンジのような不安定な状態になっています。
これをそのまま乾燥させると変形したり割れたりしてしまうため、含まれる水分を安定した物質に置き換えて固める処理が必要となります。
これを保存処理といい、木製品を元の形のまま保存するのに欠かせない修理方法です。
中屋サワ遺跡の出土木製品の場合、保存処理は既に完了していますので、土器と同様に欠損部分の樹脂補填と彩色を行っています。

保存箱の作成

金沢市では、これらの修理と同時に、資料を格納・保管する専用保存箱を各資料ごとに作成しています。
これは資料の保管や移動の際の事故防止にとても有効で、重要文化財の保存活用には必要不可欠なものです。
保存箱は桐製で、各資料のサイズにあわせて作成し、内面には衝撃緩衝材を貼り付けています。
なお、保存箱の蓋は裏面が展示台になっており、展示の際に資料を確実に保持できる形状となっています。

修理例:漆塗注口土器

資料の概要

中屋サワ遺跡から出土した宝珠型の注口土器で、焼成した土器の外面全体にに朱漆を塗ります。胴部上半には文様を回し、頂部は閉じてつまみ状に表現します。注口部は1箇所で、反対側に開口部があり、さらにその下に小穿孔があります。

1.画像左側の修理前でバラバラの状態の茶色の注口土器と2.画像右側の破片を接着し欠損部の隙間をを白い樹脂で埋めた土器の写真

1.修理前

修理前は未接合状態の状態であり、保管と展示が一体的に行えるように修復する必要がありました。
風化や漆の剥落などは少なく、資料自体は良好な状態でした。

2.接合・補強

表面に強化剤を塗布して漆塗膜の強化処理を行った後、特殊な接着剤で接合します。
欠損部にはエポキシ系樹脂を充填し、空隙を埋めます。

 

3.画像左側の欠損部を埋めた白い樹脂を違和感のない程度に色味を変えて着色された土器と2.修理した土器を木でできた正方形の保存箱の蓋の上に置いている写真

3.彩色

樹脂部分に彩色します。彩色には顔料(岩絵具)やアクリル塗料を使います。
ただし、現存部分と全く同じにするのではなく、わずかに色調を変えています。
これは現存部と復元部の区別を容易にするためです。

4.保存箱作成

保管収納のための専用の保存箱を作成します。
蓋の裏面は展示台としても利用できるような構造です。

令和5年度の修理

令和5年度は縄文土器4点の修理を実施しました。修理後は順次公開を予定していますので、最新の修理技術で甦った中屋サワ遺跡の出土品を、ぜひ金沢縄文ワールドでご覧ください。

所々欠けている修理前の鉢形土器の写真

修理前の鉢形土器

修理前の深鉢の状態です。
大きな欠損部があって破損しやすい状況です。

分解された土器の写真

分解

接合してあった土器は一度ばらばらに分解します。
過去に接合した際の接着剤などはていねいに除去します。

バラバラの状態から欠損部を白い樹脂で埋め元の形になるように接合した土器の写真

再接合と樹脂の充填

ばらばらにした土器を接合し直します。

ひび割れ部や欠損部にはエポキシ樹脂を充填してもとの形に復元します。

文様などは残存部を参考に再現します。

また、表面のもろい土器にはアクリル系樹脂を塗布して表面を強化します。

接合したものを着色し、修理が完了した土器の写真

修理完了

アクリル絵の具や岩絵の具を使って充填した樹脂に彩色し、修理は完了です。
彩色は充填部分が区別できるよう、やや色調に変化を加えています。

掘り棒残欠の保存箱

掘り棒の保存箱の作成

令和5年度は土器の修理のほかに掘り棒1点、弓1点の専用保管箱を作成しています。

木製品は土器に比べてもろく、漆塗りのものなどは表面の漆もはがれやすいため、遺物の形状に合わせた専用保存箱の作成は資料の保存にとても有効です。

内容 使用材料 品名
使用材料
汚れ・油脂等の除去 有機溶剤 CPアセトン
破断面・表面強化 アクリル系樹脂 パラロイドB-72(7%)
接合 アクリル系樹脂 パラロイドB-72(30%)
ヒビ・欠損部の充填 エポキシ樹脂 バイサム
彩色 アクリル樹脂エマルジョン TURNER ACRYLA GOUACHE
彩色 アクリル絵具 HOLBEIN ACRYLA MATTE MEDIUM
彩色 つや消しメディウム HOLBEIN ACRYLA MATTE MEDIUM
彩色 岩絵具 新彩岩絵具・天然岩絵具

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